【中小企業の成功事例】コミュニケーションで広がる技術と想い

こんにちは、戦略ラボ統括講師の岡本です。
今日は「中小企業の成功事例その1」ということで、経営戦略の視点から中小企業白書の成功事例を分析してみましょう。

1. 市場浸透戦略の事例(愛媛県松山市 網元茶屋)

今回は第一回目ですが、「市場浸透戦略」で成功した事例を解説します。

※「2021年版 中小企業白書・小規模企業白書より引用」

愛媛県松山市にある「出汁茶漬け 網元茶屋」さんは、その名の通り出汁茶漬けをメインメニューとする飲食店です。
他の飲食店と同じようにコロナの影響を大きく受け、売上が急減してしまいました。
そこで網元茶屋さんが採用した戦略は、「自分たちの強みを活かして今の市場で顧客を獲得する」戦略、つまり「市場浸透戦略」です。

網元茶屋さんは、自社の強みである「ハモの骨取り技術」を活かし、技術を習得したい料理人などを集めて「講習会」を開催しました。
ハモには無数の小さな骨があるため、骨取りはかなりの技術を要するとのことです。
ましてや「骨無し」にするにはとても大変なのですが、この技術を網元茶屋さんは持っていました。

ハモには「骨切り」という技術があり、現代では骨切りをしてから調理をするのが定番となっています。
しかし骨切りは身に包丁を何度も入れるため、その分だけ味わいが落ちてしまうそうです。
それに比べて「骨取り」だと包丁を身に入れる回数が大幅に減ることから、ハモ本来の味わいがそのまま残る、というわけです

講習会を開いたところ、地元紙での紹介もあり多くの料理人が参加したそうです。
そして何より、骨取りをしたハモの美味しさに感激し、多くの人がSNSや口コミなどで紹介するようになりました。

すると、「骨取りハモの店」というニッチなポジションを確立でき、全国からグルメ通がお店にやってくる流れが出来ました。
つまり、コロナ禍の影響から脱却できる戦略になった、ということですね。

この網元茶屋さん、最初から戦略を考えた上で実行に移したわけではなかったようです。
骨取りの技術を活かして愛媛をハモの名産地にしたい。そんな想いが先行したそうです。

それでもあえて、網元茶屋さんの成功要因を分析してみましょう。
まず戦略としては「既存の商品を既存の市場(お客様)に提供する」市場浸透戦略になります。
これは新商品を開発したり新市場に打って出たりするわけではないので、リスクは高くありません。
その代わり、お客様の期待しているもの以上を提供できないと、一気に売上を増やすのは難しいです。

その点、網元茶屋さんは「骨取りハモ」という希少な技術を持っていたため、お客様の期待を超えるための強みがあったと言えます。
しかし、例えばこれを「骨取りハモの茶漬け」として普通に提供しているだけでは、おそらく失敗していたでしょう。
講習会などでファンを作り、そこから口コミで広まって人気が出た。
この流れが重要です。
特に、地元飲食店と共同でメニュー開発などを行なったのは非常に良い取り組みですね。
中小企業の弱みである「人材や設備、資金の不足」を補う取り組みが、他社との協業なのです。

2. 市場浸透戦略のポイント

今回の事例におけるポイントをまとめていきましょう。
まず、戦略は「市場浸透戦略」を採用しました。
つまり、既存の商品やサービスを既存のお客様に提供する戦略です。
言うなれば「既存のシェアを拡大する戦略」とも言えますね。

そして戦術は「コミュニケーション」を重視した。
これはマーケティング・ミックスというフレームワークで整理すると分かりやすいです。
4Pと4Cの視点で見てみましょう(マーケティング・ミックスについては、戦略ラボの上級講座で解説しています)。

4P
商品:骨取りハモの茶漬け
価格:茶漬けとしては非常に高い
立地:愛媛松山の繁華街
プロモーション:SNSの活用
4C
顧客価値:この店でしか食べられない骨取りハモの茶漬け
顧客コスト:高くてもここでしか食べられないという希少性がある
利便性:愛媛松山の繁華街にあるので観光でも訪れやすい
コミュニケーション:料理人向けの講習会、共同メニュー開発など

こうやってみると、特に4Cのコミュニケーションが重視されているのが分かりますよね。
今回の事例では、とにかくコミュニケーションを重視したのが成功のポイントです。
普通にメニューとして出していても、価格が高いので厳しいでしょう。
ですので、価格が高くても「すごい、美味しそう、行きたい」という気にさせることが重要です。

今回は講習会に参加した料理人がSNSや口コミで広めてくれた。
これってすごいことですよね、プロがプロを褒めるんですから。
こんなに信頼できる口コミも無いでしょう(笑)。

戦略ラボでも、4Cのコミュニケーションは特に重要だと解説しています。
なぜなら、物や情報が溢れる中で自分の確実な判断材料となるのは「コミュニケーション」だからです。

例えば、目の前に500円のロールケーキと3,000円のロールケーキがあるとしましょう。
「美味しそうだから」といって、いきなり3,000円のロールケーキは買いませんよね。
「どんな味か」「どんな会社が作ってるのか」「どんなコンセプトなのか」など、さまざまな情報を知った上で3,000円のロールケーキを買うはずです。

そして、その情報が一方的に届いたのか、それとも双方のコミュニケーションにより届いたものなのかで、顧客の購買行動も大きく変わります。
「美味しいです!○○賞受賞!芸能人の○○も絶賛!」
これで買う人も確かにいるでしょう。
しかし、リピーターになってくれる可能性は低いです。
なぜなら、一方的に届く情報だからです。

「このケーキは○○で作られています。工場直販で地元の人にだけ提供していましたが、みんなに食べてもらいたいとの想いで少量だけお店で販売することにしました」
こうすると、最初の購買率は上記パターンより落ちるかもしれません。
ですが、リピートにつなげやすいお客様は増えます。

3. さいごに

今回の網元茶屋さんは、後者(双方向)のコミュニケーションを採用していました。
成功要因は?と聞かれたら、私は間違いなくこの点を選びます。
双方向のコミュニケーション無くして今回の成功は無かったでしょう。
それくらい重要なポイントです。

さて、今回は成功事例の第1回目として「市場浸透戦略」の事例をお届けしました。
こうやって成功事例を分析すると面白いですよね?
経営の理論は、ただ勉強しただけでは宝の持ち腐れです。
だからこそ中小企業の戦略ラボで実践的に学び、そして応用につなげてみてください。
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